まだ、幕も開いたばかりですし、
色々書いてしまうのはどうかとおもったんですが
ここは宝塚関係でアクセスしてくる人がほとんどいないんで
ネタばれ全開でいきます。

またまた同じ文章をぺたっと貼り付けて、と。

この話のなかの主要な登場人物には過去があり、表の顔と裏の顔の二面性が描かれています。

リュドヴィーク@春野さんは表向きはジゴロ然とした佇まいをもった詐欺師、しかし恋人が犯した罪を背負って逃げたという過去があります。
オリガ@ふづきさんは表向きは貞淑な貴族夫人、行方不明になった夫を探しに行く愛情深く見える女性、しかし過去の恋人の裏切りから愛というものを信じることが出来なくなっています。
クリフォード@彩吹さんは表向きは国のために働く「ノブレス・オブリージュ」の見本みたいな人、しかし恋人の裏切りに泣いていたオリガに一目ぼれしてしまう情熱的な面もあります。
ギュンター@蘭寿さんはぱっと見は薄気味悪いストーカー、しかし「美」に狂おしく執着する硝子のような繊細な心をもっています。繊細すぎて心の歯車が狂い、結果「美」の為に命を落とします。
イヴェット@遠野さんは一見気位の高い鼻持ちならない女優、しかし過去にはリュドヴィークと恋に落ち、自分の罪を被ってにげた彼を忘れることができません。
レオン@樹里さんは派手でちゃらちゃらしたチンピラみたいな男ながら自分が白人とベルベル人とのハーフであることからどこにも帰る場所がない深い孤独を感じて生きています。

そしてレオン以外はみな、癒されます。
ラスト、命を落すレオン、ギュンター、そのギュンターともみ合って刺されたリュドヴィーク(生死ははっきりとはかかれていませんがおそらくは死んだと思われます)以外の皆は明日に向かって歩き出します。

リュドヴィークについては、過去の恋人との和解、心引かれたオリガとのふれ合いなど癒される場面があります。
ギュンターについては、心のバランスが崩れていて、妄執した「金のバラ」の為に命を落としたことが、結果的に彼の癒しになっています。

たった一人、仲間と思っていた男に裏切られ、癒されないまま野垂れ死んでいったレオン。
彼には安らぎの場所がなかったわけではありません。
いつも彼のことを心配していてくれる母、そして彼を愛している恋人。
しかし、彼は、母や恋人を疎んじ、自分の欲望を満たすことを選んでしまいました。
口が軽い彼は(宝塚なのではっきりとは描かれてませんが、おそらくは)寝物語で恋人に自分の欲望を話してしまいます。金儲けをしてパリに行き成功して大金持ちになるんだと。
しかし恋人は思います。彼の計画は大それたこと、成功なんてするはずがない。
なにより、大好きな彼がパリにいってしまったら、自分はどうなる?捨てられる?
そんな心の揺れを切れ者の警察長官に突かれ彼女は全てを話してしまい、レオンは破滅へと突き進むのです。
仮に彼がマラケシュで流行っているレストランのオーナー、気の置けないベルベル人の仲間たちと優しい母とかわいい恋人と、時々スリもしながらwつましく暮らす、という選択肢を選んでいたら彼は破滅せずにすんだかも知れません。しかし、そのようなささやかな幸せでは満たされないほど、彼の孤独は深く、荒涼とした、果てない砂漠のようだったのです。

そして、大きなポイントは、こんなにつらつらと脳内補完込みでレオンの物語を書いたとしても、彼がどちらの選択肢を選んでいたとしても、芝居の大筋にはあまり関わりがなく、主な登場人物たちの結論は変わらないことです。
まさに究極のあて書き、と思ってしまったのは、実はこの点にあります。
レオンを演ずる樹里咲穂がこの公演に臨むに当たって背負ったストーリーへ、そして、彼女が宝塚に入団してから今までのストーリーにあてて書いているのです。
彼女は最近の某新聞でインタビューにこう答えています。
「専科というものは、宝塚にいながら卒業してしまっているようなもの」
「ずっと諸先輩方のような二枚目男役を目指していた。でもできなかった。苦しかった」
「ずっと楽屋に行きたくない時期が続いた。退団発表して今が一番楽しい」

ジャニー喜多川氏は舞台を作る上で、彼女の舞台人としての資質を引き出すために彼女自身の資質を見極めて舞台に立たせました。彼女がもつストーリーなどハナから考慮には入れていません。
荻田浩一氏は舞台を作る上で、本人の舞台人としての資質より、宝塚の舞台に立つ人間としてのストーリーを重視しました。宝塚の座付き脚本家としては当然の手法なのでしょう。彼が舞台をつくる上でのアングルは、見事に構築されています。
荻田氏が、彼女の資質を重視していないことは、プログラムでの彼女の紹介の文章でわかります。
明朗快活な男役と思えば、嫣然たる女役も達者にこなし、更には歌劇団の内外を問わず縦横無尽に活躍した貴重なスターです
これは、宝塚歌劇団が樹里咲穂につけるおきまりの紹介文
「男役も女役も自在にこなし、時には外部出演もこなす実力派スター」を
適当な言葉で飾ってあるだけに過ぎないからです。
本当に彼女の資質を理解していれば「明朗快活」だの「嫣然」だの
当たっているようで、実は外れている言葉を選ぶはずはないからです。
この文章が書かれたのは、実際に稽古に入る前か、それとも入ってからか定かではありませんが
どちらにしても、ある程度作品の構想が練られた後であることは間違いないはずで、つまり、舞台人としての資質より、宝塚の生徒としてのストーリーだけに荻田氏は興味があり、それだけを取り入れてアングルを構築しているのです。

ただし、そのアングルがあまりに見事すぎて、若干のひっかかりを感じる人も
こんなネットの片隅にひっそりといます。

(この項続く・・・・のか?)

コメント