随分間をあけてしまいました。ふう。
前回の続きからですが。

「強い責任感・プロ意識を持っている人が私は好きだ」ということを
ファントムという作品は改めて再認識させてくれました。
という話の流れでしたね。

サキホさんの時は、ショー場面とショー場面の間に何度か
ストーリーの伏線となるお芝居していたんですが、
それが、非常に辻褄合わない設定の割に、筋の通った芝居をしていて、
この舞台についての責任感が伝わってきて好きでした。
それを一番感じたのは、著作権のごたごたのシーン。
ヒカルの作曲した曲の権利は自分たちにあると、主張してくる怪しげなエージェント。
その書類を見たサキホは、一目でその書類はおかしいと見破ります。
筆跡がヒカルのものではなく、タクのものだったからです。
その前までは、普通に仲良し夫婦だったサキホとタク。
しかし、その瞬間から、関係が壊れます。
「いくらかかってもいい、この曲を使えるようにして、いいわね」と
タクに冷たく言い放ちます。
タクへの軽蔑。ヒカルの曲に傷をつけられた怒り。
タクはというと、サキホが書類を見たことで、自分への信頼がなくなったのかと
非常におろおろと落ち着きがなく、無駄にサキホに笑いかけたりしてます。
結局、コウイチが見つけていた正式な著作権の書類を提示し、
事なきを得るのですが、エージェントが退散した後、
そばに近づいてきたタクをきっと睨んで、一人去るサキホ。
狼狽した様子でサキホの後ろ姿を見詰めるタク。
非常に短い場面ですが、ここがラストの暴露シーン、そして
亡夫へのサキホの思いを表す重要な伏線になっていました。
また、このエージェント役の人がちょっと曲者で、
いちいち台詞の言い方を大げさにしていたりするものだから
タク&サキホ以外のキャストはみんな素に戻って半笑いになっていたりしました。
私はこういうのが、どうしてもだめで。
例えほとんどが初舞台のジャニーズJrだったとしても、ちょっと・・・。
そういうなか、この二人は、自分の芝居を壊すことなく、
きちんと役割を果たしていました。
この二人がしっかりしてなければがたがたになっていたであろう
この舞台で、感情の動き、役としての息づき方、本当に良かったです。

キャリ氏の場合も、登場シーンから親子名乗りあうシーンの歌、
そしてその延長線上にあるラストに向かって
まっすぐなベクトルで芝居が組み立てられていました。
例えば1幕、クリスティーヌの歌唱が、ビストロのパーティーで絶賛される場面。
クリスティーヌは最初緊張しているのか、か細い声で歌うのですが
その声を一声聞いて、キャリ氏は、かつて自分が愛したベラちゃんを
思い出します。何か思い出の中に入っていくキャリ氏。
誰かにつつかれて我に返ります。
きっと誰も見ていないかもしれない、小さな場面でも
きっちり芝居を組み立てていて、それが樹里さんなのだなと思ったんです。
SHOCKの時とは違って、破綻したストーリーのひずみを背負ってくれる人は
他にはいない状況、樹里さんの芯がぶれるとただでさえ突っ込みどころの
多い話がどっちらけになってしまうかもしれない中、
まっすぐに芝居を組み立てて、たった1曲で全てを取り返した
そんな樹里さんに惚れ直しました(笑)

ただ、ちょっと設定があんまりにもあんまりなんですよ>キャリ氏
前にも書きましたが、SHOCKとストーリーの破綻振りを
勝負してどうするんですか、と思う私。
以下、ちょっとだけ変えると少しは印象も変わるかもしれないってことを
書いてみます。

キャリ氏の独白。
「私は支配人の見習いをしていた18歳のころ、
オペラ座のダンサーだったベラドーヴァとであった。
私は彼女を一目見て恋に落ちた。しかし、
私ははちょうどその少し前に、親の決めた許婚と愛のない結婚をしたばかりだった。
彼女もそれは知っていた。しかし互いに惹かれあう心はとめることが
できなかった。
私は彼女を思う心を押し殺し、彼女も家に帰る私を見ては何度も涙し。
ただ、目が合っただけで、時が止まるほどのときめきを覚え、
手が触れあうだけで心が高鳴るような、そんな、若い二人だった。
ある日、何気なく彼女があるオペラの曲のフレーズを口ずさんだ。
それはまるで天使のような歌声だった。
私は彼女に歌手のオーディションを受けるように薦めた。
彼女はオーディションに受かり、瞬く間に一ダンサーから
スターへの階段を上り始めた。
そして、彼女がオペラ座で初めて主役を歌った日、
オペラ座は感動と興奮で割れんばかりの喝采で包まれた。
その夜、彼女に成功を祝して花束を渡した私の胸に彼女は飛び込んできた。
私は初めてずっと恋しかった彼女の肩をこの腕で抱き、
彼女のぬくもりを感じて、そしてなにかが私の中ではじけてしまった。
たった一度だけ、神に背いて彼女と一線を超えてしまったのだ。
彼女はしばらくして、オペラ座から姿を消した。
私は必死に探した。愛しき彼女を。
そして、落ちぶれた姿で身を隠している彼女を見つけたときには
彼女は身重の姿だった。
彼女は、神に背いてしまった罰を受けてしまった、
何度も神に祈り救いを求めたが救われず、死のうと薬草を飲んだが
死にきれなかったと泣き崩れた。
それからは、妻に隠れてできるだけ彼女のそばにいるようにした。
妻は私個人には関心がなく、家に帰らなくても何も言わなかったのも幸いした。
程なくして、子供が生まれた。それがエリックだ。
しかし、そのエリックの顔は見るもおぞましい顔だった。
私はエリックを見て、神は我らにこのようなむごい罰を下すのかと呪った。
しかし彼女は、生まれてきたエリックを見て言った。
「ねぇ、ジェラルド、私たちの子はなんて可愛らしいんでしょう」
そう、神は彼女の精神を狂わせることで、罰から救ったのだ。
神は私だけに、罪の十字架を背負わせたのだ。
それからまもなく、エリックがまだ物心つく前に彼女は逝ってしまった。
取り残されたエリックを、私は引き取って育てることにした。
エリックのその顔は、私の心に打ち込まれた罪の十字架を
見せ付けるかのようで、私にはどうしても耐えられなかった。
私は罪の意識から逃れるため、エリックに仮面をつけた。
じきにエリックは仮面を自ら取り、そして嘆き悲しんだ。
その姿は私の心を突き刺し、苦しめた。
何故神は、私の精神も彼女とともに狂わせてくれなかったのか。
私は生きている限り罰を受けながら生きよと言うのかと。」
とかだとどうでしょう。少しは、ましかなぁと。

問題は、橋田スガ子張りのこの長台詞を覚えてもらえるかどうかだな(笑)

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